「知識は力なり」(Ipsa scientia potestas est) とはイギリス経験論の祖と言われるフランシス・ベーコン(1561年 – 1626年)の言葉です.彼は学問の壮大な体系化を構想していましたが,その望みはもちろん実現しませんでした.
人工知能という研究分野がコンピュータの応用分野として出現後,「知は力」(Knowledge is power) というのは米国のエキスパートシステムの創始者と言ってもよいエドワード・ファイゲンバウム(1936年 – )のスローガンとなり,彼はことあるごとにこのマントラを唱えて,エキスパートシステムを宣伝しました.しかし,結局エキスパートシステムのすべてが消え去ったわけではありませんが,それが永続的かつ社会的な財として確立されることはなく,エキスパートシステムを中心とするこの人工知能産業化のムーブメントは終り,再びAI冬の時代を迎えることになったのです.
1980年代の人工知能産業化の失敗の結果,社会的には一時期AIが忌避すべき言葉のように受け取られ,AI研究から離れていった研究者もいましたが,一部のエキスパートシステム研究者はその失敗の教訓を学んでオントロジー研究を開始しました.エキスパートシステムでは,推論エンジンを核にしたエキスパートシステム・シェルと呼ばれるシステムと対象知識が分離しています.オントロジー研究ではこの特長を継承しつつも,エキスパートシステムでは難しかった知識の永続的な蓄積,他者の構築した知識ベースの共有・流通と再利用を可能にすることを目的に,知識に関する研究が進められるようになりました.
一方,ティム・バーナーズ=リー(1955年 – )が欧州原子核研究機構(CERN)において情報共有を目的に考案したインターネットをベースとした知識共有システムが,実際にはWWWとして世界に普及し,Google(1998年設立 – )によるウェブ検索システムが現実に力を発揮するようになって,オントロジー研究もWWWとの結びつきを強めていきます.すなわち,オントロジー研究者にとっては現実のWWWが膨大な未整理のオントロジー構築用素材と見えるようになり,かつ成果の応用の場とも見えるようになったのです.ティム・バーナーズ=リー自身も現実のWWWに飽き足らず,当初の目的であった知識共有のためのウェブとしてセマンティックウェブの概念を2002年ごろから提唱します.現在ではW3Cによるセマンティックウェブのための知識記述言語RDF,RDFS,OWLなどがオントロジーの記述言語として利用されるようになっています.
オントロノミー, LLC はウェブを用いたオントロジーの発行・流通,知識の共有化を追求します.