ものづくりにもっとセマンティックウェブの力を!

産業工学のためのセマンティックウェブ特集号

Semantic Web ジャーナル (SWJ by IOS Press) の Volume 5, No.2 は「産業工学のためのセマンティックウェブ」 (Semantic Web for Industrial Engineering) の特集号である。Industrial Engineeringとは俗にいうIEのことで、日本語では産業工学とか経営工学と訳される。

この特集の最初には、エディターからの特集号の説明があるが、その導入には次のような記述がある。

セマンティックウェブ言語とモデル、そして技術は、経営工学の領域において、ますます広範な研究と実用的な応用を見出すようになっている。
セマンティックウェブの産業分野への応用の主な動機は二つある。一つには、製造業組織におけるコンピュータベースの技術の広範な利用は、セマンティックウェブの厳密な適用を必要とする。もう一つには 異なるシステムや利害関係者間の相互運用性を達成するには、異なる用語間の整合性が必要である。
具体的には現状では、産業領域におけるセマンティックウェブ・アプローチは、次のような課題に取り組んでいる:

C1 知識の表現と管理 セマンティックウェブ技術は、知識の共有と再利用を効果的に促進するために使用される。これは、標準化された相互運用可能な情報表現を作成することを含む。 製造、ロジスティクス、メンテナンス、サプライチェーン管理などの分野で、様々なアプリケーション間で標準化された相互運用性のある情報表現を作成することが含まれる。

C2 意思決定支援システム セマンティックウェブ技術は、技術者や実務家のための意思決定支援システム開発において重要な役割を果たす。自動化された推論と他の計算技術を利用することで これらのシステムは、プロセスの設計と最適化、リソースの割り当て、複雑なワークフローの管理を支援する。

C3 意味的相互運用性 セマンティックウェブ言語は、データの意図された意味について明示的な表現を提供する。これは、複数の関係者間で共有される際に、重要な情報の損失を防ぐために不可欠である。これにより、異種データソースの調和が可能になり、データのシームレスな公開、交換、統合が可能になる。異なる産業プロセス、ツール、利害関係者間でのデータの公開、交換、統合を可能にする。

C4 スマート製造とインダストリー4.0 インダストリー4.0の文脈において、セマンティックウェブは様々なIoTデバイス、センサー、サイバーからのデータを統合することにより、スマート製造システムの開発に貢献する。セマンティックウェブは、さまざまなIoTデバイス、センサー、サイバー物理システムからのデータを統合し、機械と人間のシームレスなインタラクションを促進する。特に、セマンティックウェブは産業界におけるデジタルツイン技術の応用に関連するいくつかの課題に取り組むのに役立つ。

C5 人間と機械の相互作用 セマンティックウェブは、ロボットを含む人間と機械の相互作用を促進する。セマンティックウェブは、共通の正式な用語と概念体系を作ることによって、ロボットを含む人間と機械の相互作用を促進する。この標準化は、産業界における情報の取り扱いをより効果的にするのに役立つ。

Catena-Xとオントロジー

経営工学といえば、歴史的には昔は「時間研究」、「動作研究」などの技法に始まり、あまりよいイメージがないが、今話題の Industrie4.0 やデジタルツイン、IoT が経営工学(産業工学)におけるグローバルな焦眉の課題となっており、世界中でこの分野における競争が激化している。

欧州の自動車業界における企業間ネットワークとしてすでに Catena-X が有名であるが、このプロジェクトは成功裏に終了し、ドイツでは Manufacturing-X の名のもとに Catena-X の成果を他の工業分野に広く広げようとしている。

Catena-X においてもオントロジーは使われているらしい。次の図は GitHub – catenax-ng/product-ontology: Catena-X Ontology からの引用である。

アセット管理シェルとデータセマンティクス・モデル

またドイツのインダストリー4.0推進組織 Platform Industrie 4.0 はデータをつなげるためのプラットフォームとして「アセット管理シェル」を開発し、社会実装にもちこもうとしている。アセット管理シェルのデータセマンティクス・モデリングのホワイトペーパにはオントロジーという言葉こそないが、それは実質オントロジーと同等の意味的相互運用性を確保するための規約を定めている。以下の図は、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会(RRI)による和訳「ECLASS要素によるアセット管理シェルのデータセマンティクス・モデリング」からの引用である。

これらはいずれもドイツを中心とする欧州の動きであるが、一方、米国でも製造業にセマンティックウェブの力を持ち込もうとする動きはある。

OAGiとIOF

OAGi は、標準の開発を通じて ERP システム間の相互運用性の課題に対処することを目的として 1995 年に設立された米国を拠点とする非営利の標準化団体らしい。2016 年に、産業用オントロジーを開発するための特別グループが結成されたが、このグループ Industrial Ontologies Foundry (IOF) はさらに2019 年に OAGi に統合された。

OAGi の使命は、ビジネス プロセス モデル、データ標準、オントロジー、ドキュメント、ツール、ベスト プラクティス、トレーニングを通じて相互運用性を継続的に改善することであり、IOF の使命は、デジタル製造の全領域にわたるコアでオープンな参照オントロジーのセットを作成することとされている。

特に、IOFのコアオントロジーワーキンググループでは、IOFの守備範囲が非常に広く、目標達成には多くのオントロジーが必要になるため、複数のレイヤーからなる多層の上位層では様々なドメインに共通する用語を吸収したコアオントロジーが必要になるとして、ISOにもなっているトップオントロジーBFOの下にIOFコアオントロジーを開発している。下図にIOFコアオントロジーとBFOのエンティティとの関係図を示す。

日本はどうすべきか?

日本でも早急にこれらのドイツや米国の動きに対応した動きを製造業分野ですべきだと思いますが、今のところ非常にお寒い状況と言わざるを得ません。トップオントロジーはすでにISO国際標準になっていますが、オントロジー記述言語を学んでその内容を理解することだけでも、一般には大変な話です。事実、彼らの文章にもXMLとJSONとRDFを同列においた記述があったりして、彼らが本当にどこまでわかっているのかという点にも一抹の不安を感じるのです。

オントロノミー合同会社のミッションとして、これまでセマンティックウェブやオントロジーに触れてこなかった製造業関係者の皆様に、今後少しでも役立つように、RDF、OWL、ISOのトップオントロジーについてここで解説し、Catena-X オントロジーやIOFコアオントロジーを精査してその結果をこのサイトでご報告していくつもりです。