Allegro Common LispはAI新時代の新しいAIテクノロジースタックとなりえるのか

米国Franz社が新しいトリプルストア AllegroGraph を提供し始めたのと、機を同じくして新しい Common Lisp 処理系 Allegro Common Lisp v.11.0 をデリバリした。この Common Lisp では、ライブラリーに新しくOpenAI用の API が入ったのである。AllegroGraph は Allegro Common Lisp で実装されているので、これは当然といえば当然のことなのであるが、昔からあって二分されてきたいわゆる Symbolic AI と Neural Network AI 的な要素が一つになったのである。Franz社ホームページでは “The Ultimate Neuro-Symbolic AI Programming Platform” と銘打って、次のような宣伝文句がある。

現在入手可能な最も強力なシンボリックAI開発システムであるAllegro CLは、事実に基づいた企業全体のAIアプリケーション開発のために、LLMとの完璧なマッチングを提供します。ライフサイエンスから製造業、金融分析まで幅広い分野で必要とされるLLMを備えたシンボリックAIのパワーは、検索拡張生成(RAG)のニーズも満たすフランツの完全なAIテクノロジースタックによって提供されます。Allegro CL 11.0は、実世界でAIを拡張するニューロシンボリック・アプリケーションを開発・展開するための最も効果的なシステムです。

https://franz.com/products/allegrocl/

40年前の第2次AIブームや最初の第1次AIブームのときまではシンボリックAI全盛であった。第1次AIブームではマッカーシーらによる Lisp が生まれて研究を牽引してきた。第2次AIブームでは Lisp に加えて Prolog が大流行だった。現今の第3次(ディープラーニング)、第4次(生成AI)では NVIDIA が全盛となるが、言語的には計算の遅い Python とそれを補う C ライブラリーという組み合わせになった。しかしながら、Lisp がディープラーニングにあっていないという証拠はどこにもなく、それはただLispプログラミングとディープラーニングの双方にたけた人材がいないだけだ、というのが私の持論だった。

時代は急速に進み、今はLLMの時代となったが、それは一般人みんなが自然言語でAIの成果を簡単に受け取れるようになったからだと単純化していってもよい。一部の人々ではAI開発とはすなわちプロンプトエンジニアリングのことだという趣さえある。しかし問題は中身がすべてブラックボックスでわからないということなのだ。プロンプトエンジニアリングしてこう反応が出てくるからと、科学的根拠なしに話が進むようになった。企業の応用技術者はそれでもよいが、アカデミアとしてはそれは科学技術の堕落といってよい。ドクター論文はそれでは通らない(今のところは)。

究極的に望ましいのはもちろんシンボリックAIとニューロAIの統合であることは確かで、感覚から認知まではニューロAIの得意分野で、認知から認識・言語化・知識化・推論はシンボリックAIの得意分野だろう。

さあ、はたして Allegro Common Lisp がそのようなAI新時代の究極のテクノロジースタックとなりえるのかどうか、意気込みは是とすべきだが、未来は未知数だろう。ただ、長年 Allegro Common Lisp を使ってAI研究開発をしてきた私としては、そして古き良き時代のAIとCommon Lisp についての教科書を提供してきた私としては、これを機に Allegro Common Lisp で勉強しようとする人が続いてくれればとってもうれしい。すでにZoomを使った勉強会もシーズン4まで続いているが、これまでの経験から、 Allegro Common Lisp と SBCL の両方に対応するのが本質的ではないところでとても面倒だったので、これを機にこれからはubuntu上の Allegro Express v.11.0 一本に絞って、教科書も書き、新しく自然言語処理の研究も進めていきたいとおもっているところです。